大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和46年(モ甲)630号 決定 1971年10月16日

申請人

水戸うめ

代理人

伊藤宏行

青木俊二

岩瀬三郎

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請の趣旨並びに理由は別紙「特別代理人選任申請書」記載のとおりである(編注――申請人は、その姉が所有し第三者に賃貸中の建物について、賃借人よりその賃借権が他に譲渡され、占有が移転されようとしているので、仮処分をする必要があるが、姉は心神喪失の常況にあるので、申請人を姉の特別代理人に選任することを求めるものである)。

よつて考察するのに、民事訴訟法第五六条の制度の趣旨は、訴訟無能力者が当事者の一方となる場合に、右訴訟の手続内において、その者の訴訟能力を補充させることによつて、遅滞の為受けることのあるべき損害を避止させようとするところに存するのではあるが、他方、本来訴訟当事者の私法上における行為能力の欠陥等については、それぞれ実体法上その欠陥を補充すべき制度が認められているのが通例である。

従つて、本条は、新たに訴訟を提起し、あるいは中断した訴訟行為を続行させようとする当事者の側に、実体法上、訴訟能力の欠陥の補充をなす手段が認められていないか、あるいはその性質上著しい困難を伴い、これが実体法上の手続による行為能力の補充を待つにおいては訴訟行為によつて受ける利益を奪われるに等しい結果となるような場合にのみ適用又は類推適用すべきものと解するのが相当である。

これを本件について見るのに、申請人の側において、申請人自らが家庭裁判所に大山みよを事件本人として禁治産宣告を申立てる途が認められており、申請人の側においてこの方法を経由するに著しい時日を要するものと認められない上、もし本件のような一般的な場合に、広く申請を認めるときには、その申請権者を何人とすべきかとの問題ともからみ、一種の第三者の訴訟担当類似の弊害を生ずるおそれなしとしないのである。

よつて本件申請は不適法にしてこれを却下することとし、主文のとおり決定する。 (吉田宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例